はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

ヒナ田舎へ行く ブログトップ
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ヒナ田舎へ行く 150 [ヒナ田舎へ行く]

まもなく昼食の時間となり、案の定ヒナは駄々をこねだした。

ウォーターズに帰らないでと飛び掛かり、引き離そうとするブルーノに噛みつこうとしたりと、躾のなっていないネコよりたちの悪いものだった。

カイルとウェインはそのドタバタ劇をベンチにのんびりと座って見守り、驚いたネコたちは、ふとっちょを除いてあちこちへ散ってしまった。

「今日はノッティが休みだからパンもカチカチしかないんだ」ブルーノは懇願するように言った。「だからウォーターズさんから降りなさい」

金持ちの隣人をもてなすほどの余裕も用意もない。それを口にするのはひどく屈辱的だったが、所詮、自分たちは屋敷を管理しているだけの人間。恥ずかしがることでもない。

「カチカチ好きだもん」ヒナが大嘘を吐く。

ブルーノは目をすがめた。

ヒナを抱くウォーターズは、この問題をどう収拾するのか静観中だ。帰る気はないのか?

「プディングにすればいいんじゃない?」カイルが横から余計な口を挟む。

「そうですね。甘くせずにハムなんか入れたら美味しそう」とウェイン。

「ぷーでぃんぐ!ぷーでぃんぐ!」

プディングコールをするヒナに、微笑むウォーターズ。

どうにもならないと思ったブルーノは、諦めの溜息を吐き、八人分の昼食が用意できるのかどうか頭を悩ませた。

出来ない事はない。

「カイル、屋敷へ戻るぞ」ブルーノは身を翻し、屋敷へ向かって歩き出した。

カイルはパッと立ち上がり威勢のいい返事をすると、ウェインにウィンクをして兄のあとを追った。

「客の相手をしている場合ではないんだぞ」カイルが追いついたところで、ブルーノは言った。

「でも、ヒナがああなったらどうしようもないし」カイルはくすくすと笑った。

「まあ、そうだが」ひとまず納得するしかなかった。「親父のせいでダンは隠れたままだ。まずはそっちをどうにかしなきゃならんだろう?」

「プディングは僕がダンの部屋に運ぶよ」

「親父が気付かないと思うか?」

「だからさ、お父さんにお客さんを接待してもらうんだってば。その隙に、僕が行ってくるからさ」カイルは気合十分だ。

「そううまくいけばいいが……」ブルーノはこぼした。

親父はとにかく目敏い。もうすでにダンの存在に気付いているかもしれない。

隠そうたって、人ひとり、そう隠しきれるもんじゃない。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 151 [ヒナ田舎へ行く]

ヒューバートは屋敷を管理していたとき同様、キッチンの一角に座って紅茶を飲んでいた。

うむ。なかなかいい茶葉だ。カナデ様のために、あのダンとかいう従僕が持ち込んだものだろう。

格好だけは一人前だったが、慌てておどおどした様子や、額に触れたときに見せた困惑の表情は子供そのものだった。カナデ様やカイルよりはしっかりしていそうだったが、あんな子供がカナデ様の世話をしているとは、正直驚きだった。

どちらかといえば、あのウォーターズとかいう隣人(もちろん正体は知っている)の方が適任だ。

だがやはり、カナデ様の口から漏れたダンについての批評から察するに、彼はカナデ様にとっていい従僕なのだろう。

だからこそ、息子たちが決め事を破ってまで、ダンをこの屋敷に迎え入れた。

よくもまあ、父親にも秘密にしようとしたものだ。

ヒューバートはくつくつと笑った。

カイルの様子は少々おかしかったが、ブルーノの無愛想な態度はいつもと変わらなかった。スペンサーもいつもと同じ、真面目にものを考えていないふりをしていた。ただ揃いも揃って、父親の登場には迷惑そうではあったが。

ともあれ、カナデ様が不自由していなくて何よりだ。

ヒューバート自身、伯爵のやり口には納得していなかった。

だがやはり、自分はラドフォード伯爵に仕える身で、かつてこの土地をロス一族が支配していたからといって主従関係を無視することはできない。無視するなら、この土地から追われるだけだ。

長らくそう信じているが、実際はどうなのだろう。

「あ、お父さん。ここにいたの?」

ヒューバートの物思いは末息子の声によって阻まれた。カイルは借り物の服を脱いで、仕事のしやすい服装に戻っている。

「散策はもうおしまいか?」ヒューバートは訊いた。

「うん。これからブルーノとお昼の支度。お客様のぶんもあるから大変なんだ」カイルは壁に掛かるエプロンを引っ掴み、慣れた手つきで腰に巻きつけた。

「お客様をもてなせるのか?」エプロンの巻き方だけ見ると、かなり様になってはいるが。

「ブルーノがなんとかするってさ。って言っても、メニューはプディングに決定しているんだけどね」

「プディング?」そんなものを昼食に?

「ヒナが決めたんだ」カイルは含み笑いを漏らした。

「カナデ様の好物なのか?」

「どうかな?この際好き嫌いは関係ないんだよ。ウォーターズさんと一緒にいたいだけなんだから。僕だって、ウェインさんともっといっぱい話ししたいし。ウェインさんはね馬の事なら何でも分かるんだ。でさ――」

「ほぉ」と相槌を打ったが、カイルは何事も大袈裟に言うきらいがあるため、話半分で聞いておかなければならない。「だとしたら、プディングだけではよくないな。どれ、食品庫を漁ってこようか」

ヒューバートは、おしゃべりに夢中なカイルに適当な相槌を打ちつつ、席を立った。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 152 [ヒナ田舎へ行く]

ブルーノはダンの部屋を覗いた。

予想はしていたが、がらんとして無人だった。

あいつッ!どこへ行った?

腹立ちと焦りとがブルーノを襲う。

勝手気ままな主人を持つと、仕える者も好き勝手に振る舞うというわけか。

まさか!茶でも入れに下に降りていないだろうな?

そのまさかの可能性が一番高いことをブルーノは知っていた。特段紅茶好きというわけではないのだろうが、ダンはいつだってキッチンにやってくる。そのほとんどはヒナのためだが。

怒りをまき散らしながら階段を駆け下り、ふと、踊り場で足を止めた。

スペンサーと一緒ということはないよな?居間に来なかったのはあの二人だけだ。しかもスペンサーはダンが部屋に避難したことを知っている。言葉巧みに連れ出して、変なことをしていないとも限らない。

ブルーノの妄想は膨らみ、事実とは違う結論にたどり着くのにそう時間はかからなかった。

ひとつだけ事実と違わなかったのは、二人が一緒にいるということだけ。

「スペンサー!」

ブルーノはドアを蹴破らんばかりに書斎に押し入った。

きょとんとした二対の瞳が侵入者に向けられる。

ほぉら、見ろ!ダンはやっぱりここにいた。しかもスペンサーと並んで――いいや、密着して、楽しげに茶を飲んでいる。追い出されるかもしれないというのに、緊張感のかけらもない。

「まったく。うるさいやつだな」スペンサーはこれ見よがしに指先を耳に突っ込んだ。

「部屋にいろと言わなかったか?」ブルーノはスペンサーの腹の立つ言動を無視して、ダンに言い放った。

「すみません」ダンは顔を真っ赤に染め俯いた。

反省する気はあるらしい。

「謝ることはない。茶のひとつも運んでこなかったブルーノが悪い」

スペンサーの頭には反省という言葉は存在しない。

「だからわざわざここへ来てティータイムを楽しんでいるというのか?親父に見つかったらどうするんだ」ブルーノは憤った。

「もはやその心配は無用だ。ダンはキッチンで親父との対面を済ませている」スペンサーがニヤリとする。

「はぁ?親父に会ったのか?」ブルーノは間抜けな声を出した。

「ええ、まぁ」ダンは耳まで赤くした。

「ついでに言うなら、ヒナの近侍だと見抜かれたらしい」スペンサーが肘でダンを小突く。

その親しげな行為がブルーノの逆鱗に触れた。このままスペンサーを野放しにしておけば、ダンは必ず奪われてしまう。なにがなんでも二人きりになるのを阻止しなければ。こうなったら、親父にダンを追い出してもらうのもひとつの手かもしれない。

「ヒナが告げ口したんですよ」ダンは子供っぽくふくれっ面をすると、ブルーノに上目遣いで訴えた。僕が悪いわけじゃありません!と。

それだけでブルーノの気は静まった。よし!まだダンはスペンサーのものではない。

というより、ダンは誰のものにもなる気はないのだが、そのことにはこの兄弟、全く気付いていない。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 153 [ヒナ田舎へ行く]

ああ、もう!

ヒナのせいで、僕はすっかり悪者だよ。

いいや、愚か者か間抜けか――とにかく、ブルーノの非難いっぱいの目つきには耐えられない。

ダンは恥ずかしさのあまり、背中を丸めて存在を消そうとした。

「親父に見つかったのなら、問題はないな」

へっ?ブルーノはいま何て言ったの?

「問題はない?大ありだ。これからダンがここにいるもっともな理由を考えなきゃならんのだぞ」スペンサーが代わりに反論する。

「まだ考えていなかったのか?随分、もたもたしているんだな」ブルーノは腕組みをしてスペンサーを見下ろした。かなり挑戦的だ。「問題がないというのは別のことだ。客も一緒に昼食を取ることになったからダンに手伝いを頼みたい」その挑戦はダンにも向けられた。

「もちろん、手伝います」ダンはここぞとばかりに素早く立ち上がった。スペンサーがあまりに近くに居過ぎて、少々息苦しかったのだ。

「客というのはウォーターズのことだよな?」スペンサーは鷹揚と片眉を上げた。

「ヒナが離そうとしなかったんだ」ブルーノは仕方がないだろうとばかりに肩を竦めた。

「すみません」ひとまず謝った。旦那様が関係すると、ヒナはすごくわがままになる。ジェームズならどうにかできたかもしれないけど、僕には無理だ。

「親父がいい顔しないぞ」スペンサーはソファの背のてっぺんに片腕を乗せ、ふんぞり返る形でブルーノを見上げた。

「そうでもない。最初こそ文句たらたらだったが、ヒナたちと庭へ出る頃には、たかが隣人の訪問くらいそう目くじら立てることもないって顔してたからな」

「親父が何を考えているかなんて、俺には分からん」スペンサーは疑り深い目でブルーノを見た。

「あ、あの……そろそろ行った方が……」ダンはおずおずと口を挟んだ。兄弟に間に割って入るのは勇気がいったが――どことなしか険悪とあっては尚更――お腹を空かせたヒナもかなりわがままで凶暴だ。早くしないと噛みつかれてしまうかも!?

「ああ、そうだな。支度が出来たら呼ぶ。それまで『もっともな理由』というのを考えておいてくれ」ブルーノは高慢に言い放つと、ダンの腕をむんずと掴んで出口へと向かった。

「あぁ……ブルゥ……ノ」ダンは哀れな声を出し、ブルーノに引きずられるままになった。

スペンサーから解放されたかと思えば、今度はブルーノだ。しかもあとにはヒューバートが待ち構えている。

僕はいったいどうなってしまうの?

つづく


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ヒナ田舎へ行く 154 [ヒナ田舎へ行く]

廊下をいくらも進まないうちに、理不尽さに腹が立ってきた。

ブルーノはまるでくまのぬいぐるみの腕だけ掴んで引きずる子供みたいだ。ぬいぐるみの腕が千切れようが、絨毯の摩擦で擦り切れようがお構いなしってこと。

「は、離してください!キッチンくらい自分で行けます!」ダンはブルーノの手を振り払った。

ブルーノがいったい何事かとばかりに振り返った。

「別に子供扱いなどしていないぞ」

ダンの憤りなど全く気付かずだ。

「そうじゃなくて……」言葉が尻切れになった。僕はどうでもいいことで腹を立ててしまったのだろうか?「痛かったんですよ!腕が……」千切れそうなほど。

「それを早く言え。大丈夫か?」ブルーノは途端に心配そうにダンの腕を取った。今度は優しく。

「大丈夫です」ダンは頬を赤くし、サッと腕を引いた。

「そうか?それならいいが」ブルーノは納得したふうではなかったが、仕事を思い出したのかキッチンへ急いだ。

ダンもそれに続く。

「あ、あの、昼食会には僕もご一緒できるんですよね?またひとりぼっちは嫌です」

ヒューバートに正体もばれた事だし、みんながワイワイやっているのに、ひとりで昼食なんて嫌だ。

「そうかしこまったものでもないから、揃って食事をするつもりだ。そのほうがヒナも喜ぶだろうし」ブルーノは歩調を緩めダンと並んだ。

「ええ、そう思います」ダンはそつなく答えた。

ほんとはヒナは旦那様さえいれば、僕なんて必要ないけどね。

「それで?親父になんて言われた?」ブルーノが訊いた。

「話はあとで、と言われたくらいです。だからスペンサーと対策を考えていたんですよ」

「対策を考えていた?クッキーのかすを口の横に付けてか?」

クッキーのかす!?ヒナじゃあるまいし、そんなはずない!

ダンは階段から転げ落ちないように足を止め、口の辺りをごしごしとやった。

「取れました?」二段ほど下にいるブルーノに向かって訊ねる。

ブルーノはダンを振り仰ぎ、にやりとした。「綺麗なもんだ」

ま、まさか!嘘だったの?

ブルーノもそういう嘘を吐くの?いわゆる冗談ってやつ。

「子ども扱いしてからかうのはやめてください」ダンはきっぱり言い、ブルーノを追い越して階段を駆け降りた。

まったくもうっ。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 155 [ヒナ田舎へ行く]

邪魔者が消え、ジャスティンはヒナをベンチの上に降ろした。唯一逃げなかったふとっちょが、やれやれとヒナの膝にぶっとい前足を乗せ寄り掛かった。

まるで所有権を示すようなふとっちょの行為に、ジャスティンはいささかムッとしながらも、反対隣に腰を下ろした。

「ウェイン、お前どこかに行っていろ。いや、むしろ屋敷に戻って昼食の支度を手伝え」

「旦那様ひどい」ウェインは哀れっぽい声を出した。

「俺とヒナは二人きりになりたい」ジャスティンはきっぱり言い、ついでに、お前も邪魔だとふとっちょを睨んだ。

「なりたーい!」ヒナは手を挙げて、棒のように背筋をピンと伸ばした。

「ヒナってば、ちょっと会わないうちに随分薄情になったんじゃない?」

ウェインの軽口にジャスティンが笑う。「そしてわがままでもある」

「わがままじゃないもん」ヒナはぷぅっとむくれた。

「まぁ、でも、あまりブルーノを困らせるなよ。あれはヒナのために行動してくれる貴重な男だ。わざわざ雨の中うちまで来たんだからな」ジャスティンはヒナの頬をつっついた。

「ブルゥは貴重な男」ヒナはジャスティンの言葉を繰り返し肝に銘じた。

「それでは僕はその貴重な男を手伝うべくお屋敷へ戻りますね。旦那様、ヒナ、それではまたあとで」

ウェインは陽気な足取りで屋敷へ続く小道を去っていった。

やっと二人きりになった。

ジャスティンはヒナの肩に腕を回し抱き寄せた。途端に不満げな呻き声がどこからともなく聞こえ――出所は承知している――、ジャスティンは氷のような視線を声の主に放った。

ヒナは片手でふとっちょを抱いたまま、ジャスティンに擦り寄った。

「ヒナ、そいつを甘やかすな」ジャスティンが牙を剥く。

「ふとっちょはお昼寝してるだけ」ヒナはのんきに言い、ふとっちょの腹の辺りをこちょこちょと掻いた。

「ふんっ。まあいい。よし、ヒナ!それでは、俺とヒューバートを間違えた償いをしてもらおうか」

「つぐない?」ヒナは小首を傾げジャスティンを見上げた。

「そうだ。ここにチュッと」ジャスティンは指先を唇に置いた。

「キスして欲しいの?」ヒナがにんまりとする。

「意地悪めっ!」ジャスティンは屈み込んで、ヒナに唇を差し出した。「頼む」掠れ声でキスを求める。

ヒナはクスッと笑って、チュッとした。

ジャスティンは呻いた。「足りない。もう少し、こう、長く」

切羽詰まった懇願にヒナは快く応じた。ジャスティンはその機に乗じ、ヒナの唇を乗っ取り、貪るようなキスを見舞った。

ヒナはくにゃくにゃになり、とうとう煩わしいだけの(ジャスティンがそう思っているだけ)ふとっちょを投げ出した。

ジャスティンはヒナ越しに、ふとっちょに勝ち誇った笑みを投げつけた。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 156 [ヒナ田舎へ行く]

”貴重な男”ブルーノがヒナのために動くのは、下心あってのこと。

ひとえに、兄を出し抜きダンにいい男だと思われたいがためだ。

けれどもやはり、ヒナのことも少しは考えている。放っておくとうるさいから。

「カイルはウェインとテーブルを整えておいてくれ」

昼食の支度に取り掛かっていたブルーノは、狭苦しいキッチンにウェインが合流してきたのを機に、邪魔者を一掃することにした。

「八人分だからな」と、念押しをすると、ダンに卵を渡してプディングの素を作るように促した。

「わかってるって」カイルは威勢よく返事をし、ウェインを連れて食堂へ向かった。

よし。邪魔者は消えた。

ブルーノはダンが器用に卵を割る姿を眺めながら、炒めた玉ねぎと挽き肉をオーブン皿に敷き詰め、その上にたっぷりとマッシュポテトを乗せて、表面にフォークで筋を作った。

皿をオーブンに突っ込んだところで、ダンが次の指示を待ってこちらを見ているのに気付いた。こっちが見ていたときはひとつも顔を上げなかったのに、妙なものだ。

「出来たのか?」

「ええ、卵を割るのは得意なんです」ダンは照れくさそうに言い、ブルーノにボウルを差し出した。「味付けは出来ませんけど」

「上出来だ。次はパンを頼む」

「まかせてください。パンを切るのも得意なんです」ダンは笑った。

ブルーノも笑って、ダンがパンナイフを手にするのを見守った。指を切ったりしなきゃいいがと多少不安にもなったが、ダンは何事においても器用だった。

それでこそ、ヒナの世話をできるというものだ。

しばらく、ブルーノは仕事に没頭した。ダンがすぐ後ろにいて、自分の手伝いをしているかと思うと妙な心地よさを感じ、気付けば気前よく食材を放出させていた。

プディングだけの簡単な昼食だったはずなのに、まるでウォーターズの歓迎パーティーのような様相だ。まったく歓迎などしていないのに。

「ブルーノは本当に手際がいいんですね」自分の仕事を終えたダンは、椅子にのんびりと座って料理が出来上がるのを待っていた。

誰も座っていいなどと言ってはいないのに。

ブルーノは火を止め、ポットにスープを移すと、出来上がりを告げるベルを鳴らした。

間もなくして、カイルとウェインが競争でもしているかのようにバタバタと駆けてきた。一皿ずつ手にしてキッチンを出て行くと、ブルーノとダンもそれぞれ皿を持って階上へ向かった。

「これを置いたら、ヒナを探しに庭に出てみますね」冷肉を手にするダンは、そわそわと言い、早足で階段をあがって行った。

ヒナを長時間放置していたことでかなり神経質になっているようだ。ウォーターズに任せておけば、そう心配もいらないだろうに。

ブルーノはダンのきゅっと締まった尻を眺めながら、ウォーターズが度々ラドフォード館を訪問するのも悪くはないと思った。

そうすればダンはヒナから解放され、おれと過ごす時間も増えるというものだ。

もちろん、スペンサーという邪魔が入らなければの話だが。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 157 [ヒナ田舎へ行く]

「ヒューは一緒に食べないの?」ジャスティンの横でにこにこのヒナは、ひとり壁際に立ったままのヒューバートに不思議そうに訊ねた。

「わたくしはあとでいただきます」ヒューバートは素っ気なく言った。

「みんな一緒なのに?座っちゃえば?」ヒナは空いている席に目をやった。

「そうだよ、お父さん」カイルも遠慮はいらないよとばかりに言う。

ヒューバートはカイルに向かって眉を上げた。「お客様と一緒になど――」

「ヒナはお客様じゃないんだって」ヒナはにこりとした。兄弟は揃って渋面を作っている。「それからウォーターさんはヒナのお客様だから、ヒューは気にしなくていいんだよ。ね、ウォーターさん」

「はい。だからご一緒しましょう」ジャスティンもにこりとした。ヒューバートのことは警戒していても、ヒナが望むなら昼食だろうが晩餐だろうが受けて立つつもりだった。

ヒューバートは何か言おうと口を開きかけたが、結局口をつぐんだ。ヒナ相手にノーは通用しないと早くも悟ったようだ。末席に腰を下ろすと、素早く存在を消した。

「午後は何か予定があるんですか?」カイルがウォーターズに問う。もちろんカイルの目当てはウェインだ。

「いや、特にはないな。ここでは極力予定は入れないことにしているから」ジャスティンはちらりとヒナを見た。

「じゃあ、ヒナと出掛ける?」ヒナが目をぎらつかせた。

「それいいんじゃない!」カイルも同調する。ウェインを独り占めにするためだが、兄二人が黙ってはいない。

「ヒナはブルーノと出掛けるんだ」スペンサーがぴしゃりと言う。

「いつまでもウォーターズさんをここに引き留めてはいけない。予定はなくとも都合というものがあるんだから」とブルーノ。珍しく口数が多い。

「別に、そうでもありません」ジャスティン演じるウォーターズは、あっさりブルーノの言葉を否定した。「休暇とはいえ、退屈なのもなんですし……」

「ヒューはどう思う?」ヒナは遠く離れた席で静かにパンをかじるヒューバートに訊いた。

「ウォーターズ様さえよろしければ、いいのではないですか?」ヒューバートは澄まして答えた。

思わぬ伏兵にスペンサーとブルーノがぎょっとする。

まさか父親によって仕事をやりにくくさせられるとは思いもしなかったのだろう。

ジャスティンはまるっきりの傍観者として、その親子の様子を楽しむ事にした。父親が勝てばこのあとヒナと山だか谷だかに出掛け、万が一兄弟が勝てば、おとなしくウォーターズ邸に引き上げることにしよう。

無論、孤立した兄弟に勝ち目はないが。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 158 [ヒナ田舎へ行く]

賑やかな食卓は久しぶりだった。

話題はサイコロを振り続けているようにコロコロと変わり、子供たちが小さかった頃を思い出させた。

ヒューバートは亡き妻を思った。

あれが生きていた頃もこんなふうに笑顔があふれていた。気難しいブルーノでさえ時折笑っているのだ。

カナデ様の存在はとても大きいようだ。

けれども、わたしはわたしの仕事をしなければならない。息子たちが伯爵から受けた仕事をきっちりとこなせるように。

さてさて、どうしたものか。

ヒューバートは己の仕事がなんであるのか見当もつかなかった。

隣人を追い返し、ダンを直ちに屋敷の外へと送り出す?

そうするべきなのは頭では理解出来ても、行動に移すなど出来ない。ではわたしはなにをするべきなのか?

ひとまず、今日一日様子を見ることにしよう。

命令に背くわけではないが、カナデ様にとって何がよいことなのか見極めるためにも時間が必要だ。

「じゃあ、僕とウェインさんで片付けをして、ブルーノはヒナとウォーターさんとお出掛けでしょ。ダンはお父さんが話があるって言うし……」そこでカイルは不安そうにダンを見た。わたしがダンを取って食うとでも思っているのか?

「スペンサーは何をするの?」

マッシュポテトをちびちびと食べていたカナデ様が、フォークを持った手でスープの器に手を伸ばした。

危ないっ!

あやうく倒れかけたグラスをウォーターズがまるで予期していたかのようにがっしりと掴んで、そっと場所を移動させた。

カナデ様は難なくスープを手にすることが出来た。

「俺はこう見えて忙しいんだ」スペンサーは適当に答え、皿の上のグリーンピースをフォークで端っこに寄せた。

「そうだ。スペンサーには考えることが山のようにあるんだからな」ブルーノの皮肉った物言いはいつものことだ。

「そうなの?」カナデ様は難しそうな顔で、スペンサーとブルーノを交互に見やり、フォークを置いてスプーンを手にした。

「ヒナ、熱いから気を付けるように」ウォーターズがカナデ様にそっと耳打ちをする。

どこからどう見ても、ただの隣人には見えないというのに、我が息子はいったいどこに目を付けているのやら。

「ねぇお父さん、ダンを追い出したりしないよね?」

カイルの一言で、矛先がこちらに向いた。

「カイル。お客様の前で話すようなことではないぞ」ヒューバートはひとまずの回答を避けた。

「追い出すの?ヒュー」カナデ様が縋るような目をこちらに向けた。まるで、捨てないでと懇願する仔犬のようだ。

ああ、カナデ様。そんな目でわたくしを見ないでください。

「いいえ、そのようなことはいたしません」

ヒューバートは案外容易く屈した。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 159 [ヒナ田舎へ行く]

お父さんの困った顔なんて初めて見た。

しかも仕事に関することにはひどくうるさいお父さんが、ダンと話をする前なのに、追い出したりしないって宣言した。

ヒナってば、すごーい!

カイルは賞賛のまなざしをヒナに向けた。スペンサーもブルーノも同じだ。

ダンはホッとしたのか、いまにも泣き出しそうな顔で、ウォーターさんの陰に隠れるヒナを見ている。なので、見ているのはウォーターさんの腕の辺りなんだけど。

ウェインさんは事情を知らないせいか、気にせず食事をしている。ウェインさんのそういうとこが、僕は好き。

「ヒナってダンがいないとなーんにもできないからよかった」ヒナがお決まりの文句を口にした。

「そうなのか?」ウォーターさんがにやにやしながら訊ねた。これがヒナの決まり文句だと知っているみたい。まあ、二人は仲良しだから知っていてもおかしくないけど。

「カナデ様に不自由させるわけにはいきませんから」お父さんは早くも衝撃から立ち直った。使用人とはこういうものだという仮面をかぶり、ヒナに向かって恭しさ全開で言葉を掛けた。

「でもさ、伯爵はヒナを甘やかすのに反対なんでしょ?」カイルは自分たちが置かれている状況について口を挟んだ。

「カイル、お客様の前だ。口を慎みなさい」

「別にかまいませんよ。そちらの事情は多少なりとも耳にしていますし」と、ウォーターさん。

「ヒナから聞いたの?」カイルは屈託なく訊ねた。

「ん?」と、とぼけるウォーターさん。

ヒナが告げ口したと思っていると思われたのかも!?そうじゃないって説明するにはなんて言ったらいい?

「旦那様は自分の知らないことがあるのは嫌なんですよ」これまでおしゃべりに参加していなかったウェインさんが、口元をナプキンで拭きながら言った。遠慮のない物言いのウェインさんって素敵だなぁ。

「隠しごとはしないの」ヒナはえへんと胸を張った。

「それでは、ウォーターズ様は何もかもご存じというわけですね」お父さんの目がきらりと光った。

それに対してウォーターさんは不敵な笑みを浮かべた。

どうやら、僕の知らないところで何かが起こっているみたい。

カイルは観察を続けながら、焼いた厚切りハムをカチカチのパンに挟んで口いっぱいに頬張った。

つづく


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